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futashiba248(フタシバ)関将史さん 裕子さんインタビュー/農業廃棄物から染色するサステナブルな 服作りを通して地域と消費者の橋渡し役に

ファッションを学ぶために向かった東京で出会い、「いつか一緒にブランドを作ろう!」と誓い合った関さんご夫妻。夢を叶えた場所は茨城県。二人がたどり着いた“ファッション”のカタチは、農業廃棄物を再利用した染液を使って、自らの手で染めるという、地域活性化にもつながるサステナブルなもの。「染色した商品をきっかけに地域の魅力を知ってもらう」ことを目標にした取り組みの内容とは。

経験ゼロから染色にも挑戦!

―なぜ、茨城でブランドを立ち上げようと思ったのでしょうか。

まだ東京にいた頃、実家の父から「二人で大子町にリンゴ狩りに来ないか?」と誘われたんです。それまで、茨城県内でリンゴ狩りができると知らなくて。実際に行ってみると農園は広々として美しく、そしてリンゴも美味。広い空や木々の緑が心地よくて、「自然っていいなぁ~」と思わず二人で声を揃えていました(笑)。農家の方に話しを聞くと、県内でも、若い方は地元でリンゴが採れることを知らないとのこと。それはもったいない! この自然豊かなリンゴ園をもっと多くの人に知ってもらうために、自分たちにできることはないかと考え始めたんです。
たまたま、その少し前に染色家の方にお会いし、リンゴや梅の木でも染め物ができると教わっていて。そこで、モノは試しだと、農園の方からいらなくなったリンゴの枝をもらい、染色に挑戦。これが予想以上にいい出来栄えで。きれいな黄色に染まった布を見て「これならいける」と確信しました。考えてみれば、茨城県は農業大県。収穫後の枝や葉を使って染色した洋服を作れば、農業廃棄物の活用にも地域の活性化にもなるのではと。

―そして、2018年春に茨城への移住。商品化に至るまでには、どんなご苦労が?。

もともと、私(将史さん)はアパレルの商品管理、妻は子供服のデザインをしていて、染色については素人。染色も服の製造も販売もすべてが試行錯誤の連続でした。例えば、草木染の一般的な原料は販売されているのでお金を払えばいつでも購入できます。けれど、私たちの場合は、原料をもらうところから始めなければなりません。農業廃棄物といってもいつでもあるわけではありませんし、もらえるところも限られている。まして、自分たちは東京から来た“よそもの”。農家さんに電話をして事情を話してもいぶかしがられても致し方なし。それでも、1軒1軒、連絡をとっては自分たちの思いや目指していること、できることを伝えていきました。そうしているうちに、顔見知りになった農家さんのツテでリンゴのほか、メロン、栗、ブルーベリー、トマトと原料として頂く農産物もどんどん増えていきました。

―染色に関しては、知識も経験もゼロからのスタートだったとか。

本やインターネットで調べ、一か八かでまずはやってみるところから始まりました。でも、不思議と“失敗”ってないんです。もちろん、色が濃く染まったり、逆に染まらなかったりもします。でも、どの色も澄んでいて趣があり、個性がある。今も試行錯誤しながら、色との一期一会を楽しんでいます。

―お二人でどのように役割分担をしているかも気になります。

染色作業は二人で行い、デザインアイデアは私、小物の制作、デザインの指示は妻、それ以外に関してはその都度、話し合って決めています。二人だけで煮詰まったり、ぶつかったりすることはないのか聞かれることもあるのですが、私たちの場合は総じて穏やか。思っていることや意見を素直に言えたり、支え合おうと思うなど、どちらかというと二人でいる安心感が大きいように感じます。

農家と連携した体験型イベントも実施

―最近では農業廃棄物のアップサイクルなどSDGsにつながる取り組みとしてメディアにも取り上げられ、首都圏の百貨店でポップアップストアを展開するなど注目を集めています。

正直、ブランドを立ち上げた頃はSDGsやアップサイクルという言葉すら知らなくて…。農業廃棄物といっても、農家の方が大切に育てたものには変わらないので、捨てるだけではもったいない。だったら染料の原料にしようと思ったことがそもそものきっかけです。色を煮出し終えた染液の一部はコンポストして土に還すこともできます。だとしたら、服などの生地も土から生まれたものをとオーガニックコットンや和紙など土に還るものを選ぶようになりました。
生産に関しては、あくまで二人でできる範囲のものをというのがモットー。ですから、最初はアクセサリーからはじめてロスを抑えました。シャツやパンツなど衣料品を展開する際も、ジェンダーレス、エイジレスなデザインを心掛け、仕立ても個人の方にお願いをし、極小ロットで製作をしています。実際、1日で染め上げられるのは4枚~6枚が限度なので大量生産は無理。手も思いもかけたかけたモノだからこそ、長く大切に着て欲しいと思うのは当然のことですよね。そうした自発的な思いと行動がたまたま世の中の潮流にマッチしたということでしょうか。

―ブランドの立ち上げから約4年。ご自身の方向性や顧客のニーズにどんな変化を感じますか?

自分たちとしては、コミュニケーションを図ることの大切さを知った4年間でした。当初、販売方法はオンラインを主軸に考えていました。ところが、色を含め、商品の魅力が伝わり切れないもどかしさを感じることが少なくなく。そこで、県内外のマルシェなどに出店し、お客様と対面で話しをし、実際の商品に触れ、染料の原料を見てもらうことで、茨城の農産物の魅力を伝えることにしました。先日、横浜高島屋さんでポップアップストアを展開したときに感じたのは、作り手の思いや素材へのこだわりなど、アイテムの背景やストーリー性に興味を抱くお客様が想像以上に多いこと。「この黄色のTシャツ、トマトの葉で染色したんですよ」とお話しすると、皆さん「トマト⁉」と驚かれます。トマトの場合、染料が採れるのは収穫直後の7月末~8月のみ。自然のものなので、染料を作る期間が限られ、しかも、染液もナマモノなので、保存が効かず数日で使い切らなければならないことなどをお話しすると、皆さん興味深々。80歳の女性のお客様は、「どこにでも売っている服にはもう興味がないの。あなたたちのような素敵な服を作って頑張っている人を応援したくなっちゃう」と言って、ワンピースをご購入いただきました。とても気に入ったようで、その場で着替えてお帰りに。お客様と自分たちの思いが一致することの喜びを実感しました。

―現在、地域活性化に関してはどのような取り組みを行っているのでしょうか。

商品を販売する際には、タグに生産地の市町村を記載し、生産者や地域を知っていただくきっかけを作っています。販売は基本、自分たちで行うため、どんな方がどのような農園でどのような栽培方法を行っているかなどを説明しています。興味を持って耳を傾けてくださる方は思った以上に多いですね。また、昨年からリンゴ園とコラボして「リトリート染色体験」を企画しました。リンゴ園で染色体験を行い、染色の合間にリンゴ狩りやお買い物を楽しんでもらい、染めた布を乾かしている間に農園のリンゴで作ったアップルパイを召し上がって頂く。これが思った以上に大好評! ご家族連れなどで賑わいました。今後、他の農園さんとも、こうした体験型のイベントを実施したいと考えています。

―地域と消費者の橋渡しがすでにできているのですね。

商品や染色体験を通して農家さんと消費者の距離が縮まっている実感はありますね。先日、栗加工会社の社長の方に「栗の可能性を広げてくれてありがとう!」とお礼を言われて。4年前に目指したことがカタチになってきたようで嬉しかったです。今後の展望としては、茨城県44市町村ごとにそれぞれの特産品の農業廃棄物で染色する「農color」チャレンジを実践しようと、クラウドファンディングもはじめました。いずれ茨城を彩る44色が揃ったら、農colorファッションショーを行なったり農color本を作ってみたいなと。二人で作業を行う今までのペースを保ちつつ、農家さんなどの協力を頂き、地域に寄り添う取り組みをコツコツと続けていければと考えています。

夫の関 将史さん、妻の裕子さんともに東京モード学園を卒業。それぞれにアパレル企業に就職したのち結婚。2018年、将史さんの故郷でもある茨城県に拠点を移し、農業廃棄物を染液に使うファッションブランド「futashiba248」を設立。ブランド名の「フタシバ」は、「フタ」には再利用(フタタビ)の意味を込め、「シバ」は茨城県の輪郭が遠吠えする柴犬の姿に似ていることと、二人が柴犬好きなことにちなんでいる。

futashiba248(フタシバ)